歯を失う原因は歯周病、むし歯、噛み合わせの力です。
歯周病と虫歯は細菌の感染症です。
これは、歯ブラシをしたり、歯医者さんで歯石を取ったり、食事のとり方に気をつけることにより予防することができます。
しかし力のコントロールはとても難しいのです。
歯医者さんを悩ませるのも力による歯のダメージなのです。
噛み合わせの力というと、患者様は、硬いものが好きだからというような食事の時にかかる力を想像されるのですがそれとは違います。
私たちがいう噛み合わせが強いというのは、無意識の時に起こっている力の事なのです。
おもに眠っているときに起きていることが多いものです。歯ぎしりや食いしばりといったものでそれらを総称してブラキシズムといいます。
このブラキシズムでは、奥歯に自分の体重の2倍くらいの力がかかるといわれています。
60キロの人でしたら約120キロです。
歯の再表層「エナメル質」は人間の体の中で一番硬いとされています。
ではどのくらい硬いのでしょうか。
硬さをはかる単位として、『モース硬度』というものがあります。
- モース硬度 1:チョーク
- モース硬度 2:岩塩 純金
- モース硬度 3:珊瑚
- モース硬度 4:鉄 真珠
- モース硬度 5:ガラス
- モース硬度 6:オパール
- モース硬度 7:人間の歯(エナメル質) 水晶
- モース硬度 8:エメラルド
- モース硬度 9:ルビー サファイア
- モース硬度 10:ダイヤモンド
どうですか、これを見ると、鉄やガラスよりも硬く、水晶と同じくらいであるとわかります。
このとてもとても硬いエナメル質を削るために、歯科治療で使う器具にはダイヤモンドが使われているのです。
その硬いエナメル質が削れたり、欠けてしまうような力がかかってくるのがこのブラキシズムなのです。
例えば食事中に、お箸を噛んでしまった、食べ物の中に硬いものが入っていてそれを噛んでしまった、というようなときは反射的に口を開けると思います。
また歯が欠けるほどの力をかけて何かを噛むということを試してみてください。
そのような力がかかる前に痛みを感じてしまいとてもできないはずです。
ところが眠っているときの無意識下でのブラキシズムは、リミッターがきかず歯が削れるほどの力をかけてしまうのです。
このブラキシズムが厄介なことは、患者様自身で気がいていないことが多いということです。 長い間に少しずつ少しずつ削れていく歯の変化には、気が付きにくく、特別な症状も出なければ、さほど危機感を覚えないものです。
毎日毎日多くの患者様のお口の中を見させていただいていると、このブラキシズムが歯に対してどのような影響を及ぼすか、歯の寿命にどのように影響するのかを目の当たりにすることがあります。
当医院では子供のころからむし歯ゼロ、大人の場合には歯周病予防に力を入れています。
むし歯も歯周病もなってしまってからでは遅いのです。それと同じようにこの噛み合わせの力のコントロールも非常に大切であると考えています。
ブラキシズムのある方の特徴
- 頬の内側に白っぽいラインがる(噛み合わせの歯のあと)
- レントゲンを見ると顎の骨が角ばっている。
- 顎の骨の角がギザギザしている。
- 犬歯の先がすり減っている。
- 知覚過敏が起きている。
- 下あごの内側に骨が出っ張っている。
- 奥歯の周りの骨に厚みがある。
- 歯の根元(歯と歯茎の境目)が削れている。
- 上の歯が下の歯を抱え込んでいる。
- 力のかかっている歯の周囲の骨が溶けている。
- 歯の間にむし歯が多くある。
などがあげられます。
歯科医からするとこのような特徴をすぐに見つけられるのですが、それが患者様自身には問題であることが知られていないのです。
このことを知っていてほしいのです。
ブラキシズムにより、歯が削れる、歯が割れる、むし歯でもないのに歯が痛い、しみる力による影響は、思っているよりも深刻です。
ブラキシズムから歯を守るには
ブラキシズムから歯を守るにはナイトガードの装着。
これはブラキシズムにより直接歯と歯がすり合わさるのを防ぐ役割があります。
食いしばりの強い方の場合には、ナイトガードにより、下あごがある程度リラックスした位置に移動することができる効果もありそうです。
しかし、基本的にブラキシズムは収まることはないので、ナイトガード上で噛み合わせる筋肉(咬筋)の過緊張が起きているので、歯のすり減りや、欠けの防止にはなっても、顎の疲れは残ることが多いです。
またナイトガードは違和感が大きく、それを入れて眠ることができなければできない方法なのです。
現在最も有効な治療法は、ボツリヌストキシン製剤によりブラキシズム抑制法です。
ボツリヌス菌が作り出す天然のたんぱく質(ボツリヌストキシン)を成分とする薬を筋肉内に注射する治療法です。ボツリヌストキシンには、筋肉を緊張させている神経の働きを抑える作用があります。そのためボツリヌストキシンを注射すると、咬筋の過緊張をやわらげることができます。その結果、歯を削ってしまうような力がかかるのを防ぐことができるのです。
日本と比べると海外ではもっと一般的なブラキシズム治療として認知されています。
日本の場合美容外科で行われる、「小顔注射」というのがこれと全く同じもので同じ方法です。えらが張っている方の咬筋に注射することにより、力がかからなくなり筋肉が縮小して結果として顎がほっそりする。というものです。
咬筋にボツリヌストキシン製剤注射をすることにより、咬筋は廃用性萎縮を起こし、筋肉を細くなります。
エラボトックスは咬筋を細くすることにより小顔にします。
咬筋は骨格筋であり、関節をまたいで骨と骨に付着し、関節を動かす作用があります。
骨格筋にボトックス(ボツリヌストキシン)を注射すると、1週間後くらいから徐々に廃用性萎縮が始まります。
2週間後にはちょっと細くなってきたのがわかります。
4~8週間後くらいには効果が最大限に現れていることが多いです。
その後、しばらく最大限の効果が続きますが、注射後4~6ヶ月くらいには徐々にボトックス(ボツリヌストキシン)の効力が弱くなってくるので、それに伴って、筋肉が使われるようになっていき、また太くなっていきます。
注射後7~10ヶ月後くらいには、ボトックス(ボツリヌストキシン)の効力が切れてから、普段通り筋肉を動かしているため、筋肉はリハビリを完了し、また太くなっています(普通、萎縮して細くなった筋肉は、萎縮した後、1ヶ月くらい使い続けると大部分戻ります)。
ただし、骨格筋は表情筋に比べて廃用性萎縮が生じ易いため、ボトックス(ボツリヌストキシン)注射してから6ヶ月以上経過して、ボトックス(ボツリヌストキシン)の活性がなくなってからリハビリを完了しても、注射する前ほど筋肉は太く戻っていないことが多いです。
統計的には、骨格筋に大量の高濃度ボトックス(ボツリヌストキシン)を注射して、1年後の状態をみると、最大限効果が現れていたときの2~3割くらいの効果は残っています。 そして、その2~3割くらいの効果は永久的に残ります。
そのため、エラボトックスは5~6回くらい注射すると、もう注射しなくても、最大限に効果が現れていたときの状態に近い状態を維持することができます。
その場合、注射する間隔は、ボトックス(ボツリヌストキシン)の活性が低下し始める3~6ヶ月くらいが最も効率的、合理的で良いです(個人差もあり、だいたい4~5ヶ月間隔くらいで注射する人が多いです)。
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